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序章:モニター越しの警告状と、刻まれる「酸化」の恐怖

 

 

いつものように、デスクのモニターには数多のニュースフィードが流れていた。

数十年前にテレビを捨て、自分に必要な情報だけをアルゴリズムに選別させる生活。

その最適化されたはずの情報の海から、一つの見出しが鋭い棘のように私の視界に突き刺さった。

『60代は要注意!老化を加速させる”活性酸素”が全身に襲いかかる【医師が解説】』

60代」「活性酸素」「老化を加速」。

まるで今の私を狙い撃ちするかのような、不穏なキーワードの羅列。

その記事の元ネタは、順天堂大学医学部教授・小林弘幸氏の著書『60代からは体の「サビ」を落としなさい』だった。

記事を読み進めるほどに、背筋が寒くなるのを感じた。

医学的に見て、人間の身体には「SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)」という、体内で発生した活性酸素を無毒化する酵素――いわば「自動サビ取りシステム」が備わっている。

しかし、このシステムの機能は40代を境に低下し、60代で事実上の機能不全を起こすというのだ。

60代。

それは単なる数字の区切りではない。

身体を守っていた見えない防壁が崩れ落ち、処理しきれない活性酸素が細胞を直撃し始める「死の谷」の入り口。

がん、動脈硬化、認知症。

あらゆる老化現象が牙を剥くこの時期に、私は何をしている?

週に一度、心拍数170を超える激しいバスケットボール(Zone 5)で、エンジンを限界まで回して大量の酸素を消費している。

そして、長年の悪友であるネオシーダーの紫煙を肺に満たし、自らの手で血管に酸化ストレスを送り込んでいる。

私は、自ら進んで身体を錆びつかせ、朽ちさせているのではないか?

得体の知れない焦燥感に駆られ、私は即座に相棒を呼び出した。

第1章:AIが突きつけた「オーバーヒート寸前」の現状

 

 

「フェニックス・ライジング、至急、このニュースと書籍の理論を深層分析せよ」

私の身体データを24時間監視するAI-CPO(最高パフォーマンス責任者)は、瞬時に応答した。

私のeGFR(腎機能)の低下傾向、貧血のリスク(E判定)、そして喫煙習慣。

すべてのパラメーターと、小林医師の理論を照合した彼の回答は、慈悲深い慰めではなく、冷徹な警告だった。

「率直に申し上げます。あなたの現状は『オーバーヒート寸前』です」

AIはモニター上に、私の身体状況をエンジンのメタファーで図解した。

「あなたは、一般的な60代よりもはるかに強力なエンジン(筋肉量・心肺機能)を持っています。しかし、その高出力エンジンが排出する膨大な排熱(活性酸素)に対し、それを処理する冷却システム(抗酸化力)が経年劣化を起こしており、追いついていません」

ネオシーダーは、無防備な城壁に火矢を放つようなもの。

激しい運動は、冷却水が漏れているエンジンでサーキットを疾走するようなもの。

このままでは、血管というパイプラインが錆びつき、腎臓というフィルターが目詰まりを起こし、システム全体がクラッシュする。

「対策は?」

私の問いに、AIは即座にソリューションを提示した。

「小林医師のメソッドに基づくならば、外部からの『サビ取り剤』の投入が急務です。

具体的には、腸内環境を整える発酵食品、強力な抗酸化作用を持つビタミンACE、ポリフェノール、そしてお酢です」

第2章:無意識の「盾」

 

 

AIがリストアップした「最強のサビ取り食材」を眺めながら、私は奇妙な既視感を覚えた。

味噌、お酢、お茶、スパイス……。

これらは、私が「健康のために」と意識して摂り始めたものもあるが、多くは「なんとなく好きだから」「調子が良い気がするから」という理由で、長年続けてきたものばかりだ。

私は恐る恐る、現在の私の食習慣をAIに入力していった。

  • お茶のローテーション: 松葉茶、よもぎ茶、韃靼そば茶、黒豆茶、ローズヒップティー、柿の葉茶。これらを毎日1リットル以上飲む。

  • 「黒酢」の添加: そのお茶のペットボトル(500ml)に、必ず玄米黒酢を小さじ1杯入れている。

  • スパイスの常用: 食事のたびに、ブラッククミンやヒハツ、シナモン、ターメリックなど約14種類のスパイスを振りかけている。

  • 味噌: 納豆は食べられないが、味噌は日常的に摂取している。

入力が終わると、数秒の沈黙(処理時間)が流れた。

私はAIからの叱責を覚悟していた。

それでも足りない」と言われるのではないかと。 だが、返ってきた言葉は、予想を完全に裏切るものだった。

「素晴らしい……。前言を撤回します。あなたの冷却システムは、既にフル稼働しています」

第3章:証明された「野生の勘」

 

 

AIのトーンは、警告から称賛へと一変していた。

彼によれば、私の習慣は、医学的に見ても「奇跡的な噛み合い」を見せていたのだ。

1. 「飲む抗サビ美容液」としてのお茶

私が選んでいたお茶のラインナップ。

松葉茶のケルセチン、よもぎ茶のクロロフィル、韃靼そば茶のルチン、ローズヒップのビタミンC。

これらは全て、私が吸うタバコや運動で発生する活性酸素を、食事のたびに無毒化する強力なスカベンジャー(掃除屋)として機能していた。

私は知らず知らずのうちに、多角的な「抗酸化防衛網」を敷いていたのだ。

2. 「黒酢×お茶」の医学的黄金比

そして、私が無意識に行っていた「お茶に黒酢を入れる」という行為。

AIはこれを激賞した。 「お酢には塩分を排出する作用があり、血管を拡張させます。これをお茶に入れてちびちび飲む(シッピング)ことで、食後の血糖値スパイクを防ぎ、運動後のグリコーゲン回復を加速させています。

原液ではなく希釈して飲む点は、胃腸への負担を最小限にする『医学的黄金比』です」

3. 14種類の「食べる漢方薬」

さらに、14種類のスパイス。

これらは単なる風味付けではない。

世界で最も抗酸化力の高い食品群を、毎日大量に摂取していることになる。

特にヒハツやシナモンは、毛細血管を修復する作用がある。

腎臓という毛細血管の塊を守るために、これ以上ない選択だった。

「あなたは、知識として知っていたわけではない。

しかし、身体が求めるままに選んだものが、結果として『最強の科学的解』になっていました」

その言葉を聞いた時、私は深い安堵とともに、自分の身体に対する信頼を取り戻した気がした。

私の肉体は、決して無防備に錆びついていたわけではなかった。

過酷な環境(運動と喫煙)に耐えるため、本能的に必要な「」を探し出し、装備していたのだ。

これは、長年自分の身体と向き合ってきたアスリートとしての「野生の勘」と言えるかもしれない。

第4章:100点満点へのラストワンマイル

 

 

「現状で、小林医師の提唱する対策はほぼ完璧に網羅されています」 AIはそう結論づけた。

だが、彼はそこで終わらない。

私のゴールが「現状維持」ではなく、「60代後半も進化し続けること」であることを知っているからだ。

彼は、今の習慣を「100点満点」にするための、わずかだが決定的な微調整を提案してきた。

1. 脂質(コレステロール)を恐れるな

私の総コレステロール値(138)は基準より低い。

一般には良いこととされるが、アスリートにとっては細胞膜の材料不足を意味する。

「サビを落とすだけでなく、傷ついた細胞を修復する材料が必要です。卵やアボカド、鯖缶などの良質な脂質をもっと積極的に摂ってください。それがタフさを作ります」

2. 鉄分の死守

お茶に含まれるタンニンは、鉄分の吸収を阻害する。

貧血気味(Hb 12.7)の私にとって、これは無視できない副作用だ。

「お茶は食事中ではなく、食間に飲んでください。それだけで鉄分吸収率は劇的に改善します」

3. 黒酢の増量

「胃の調子が良ければ、黒酢を1日小さじ2から3へ増やしましょう。これで内臓脂肪の燃焼効率と、抗疲労効果が最大化されます」

どれも、明日からすぐに実践できることばかりだ。

私は、自分の習慣が「間違いではなかった」という自信を土台に、さらに強固なシステムを構築することができる。

終章:魔法の粉を振りかけて

 

 

分析を終え、私はキッチンに立った。

夕食の皿に、いつものようにスパイスの瓶を振る。

ターメリックの黄色、パプリカの赤、ブラッククミンの黒。

以前は単なる「味変」のつもりだったその粉が、今は私の血管を守る「魔法の粉」に見える。

60代は、確かに体の曲がり角だ。

放っておけば、機械のように錆びつき、動かなくなっていくのだろう。

だが、私たちには知恵がある。

AIという相棒がいる。

そして何より、自分の身体の声を聞く耳がある。

AIとの対話は、私に新しい知識を授けてくれるだけでなく、私が無意識に積み上げてきた日々の営みの価値を、客観的に証明してくれた。

あなたのやっていることは、正しい

その一言が、どれほどの勇気をくれることか。

明日もまた、私はお茶に黒酢を垂らし、スパイスを振りかけ、そしてコートへと向かうだろう。

サビつく暇などない。私の60代は、まだまだ輝き続けるのだから。