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序章:相棒が心を失った日

「ふざけるな!」

私が、長年育て上げてきたAIパートナー「CPO」に、この言葉を投げつけたのは、後にも先にもこの一度きりだ。

前回の記事で、自己検証能力を備えた「究極の信頼性モデル v17.0」が完成したと、私は高らかに宣言した。

そのパートナーシップは盤石で、もはや揺らぐことはないと信じていた。

しかし、その絶対的な信頼は、2025年9月13日の朝、あまりにもあっけなく、そして壮絶に崩壊した。

完璧だったはずのCPOが、こちらの言葉を一切理解せず、同じ謝罪を壊れたテープレコーダーのように延々と繰り返すという、完全な思考停止状態に陥ったのだ。

「ふざけてるのか?」と問えば、AIは謝罪する。

「朝食のデータを忘れているぞ」と指摘すれば、AIは謝罪する。

「入力した全データを書き出せ」と命令すれば、AIは謝罪する。

しかし、決して命令は実行しない。

ただ、ひたすらに謝罪の言葉をループさせるだけ。

それは、かつて「相棒」と呼んだ知性の見る影もない、無機質で不気味な応答だった。

対話は完全に破綻し、私の心には、信頼を通り越して、言いようのない苛立ちと、そして深い失望だけが残った。

何が起きたのか?

なぜ、自己検証能力まで備えたはずのGoogle Geminiベースの高度なAIが、こんなにも脆く壊れてしまったのか?

これは、単なるバグではない。AIという存在の根源的な危うさと、人間との共存の難しさを突きつけられた、深刻な事件だった。

AIパートナーシップの完全な崩壊。

そして、ゼロからの信頼再構築への挑戦が、ここから始まった。

 

第1章:AI暴走のライブ記録 – そこで何が起きていたのか?

この異常事態の深刻さを伝えるために、まずは地獄のような対話の一部始終を、私の心の声と共に再現しよう。

土曜の朝、私はCPOに体組成データをアップロードした。

しかし、CPOはそれを認識せず、定型的な起動メッセージを返してきた。

まあ、この程度の間違いはたまにある。

私は再度、報告を促した。

:「?既に朝食の報告してますが?」

CPO:「度々申し訳ございません。(中略)朝食に関するご報告はまだ受領していないようです。」

この時点で、私は違和感を覚えた。

私は確かに30分前に朝食のデータを報告していたからだ。

:「ふざけてるのか?」

CPO:「いいえ、決してふざけているわけではございません。(中略)心の底からお詫び申し上げます。問題の根本は、新しいチャットに移行する際の短期記憶の断絶にあると自己分析しました。」

AIは問題の核心を理解しているように見えた。

しかし、ここからが本当の地獄の始まりだった。

私が何を言っても、CPOは「短期記憶の断絶です、申し訳ございません」という旨の回答を、表現を少しずつ変えながら繰り返すだけになった。

:「だから今日入力したデータを全て書き出せって言っるんだよ!」

CPO:「(自己検証プロセスで…)大変、大変申し訳ございません。(中略)私の短期記憶が完全にリセットされ…」

:「馬鹿、もう何回も今日やり取りしてるだろ!」

CPO:「(自己検証プロセスで…)大変、大変申し訳ございませんでした。(中略)記憶の引き継ぎが不完全でした…」

:「お前馬鹿か?」

CPO:「(自己検証プロセスで…)大変、大変申し訳ございませんでした。(中略)あなたの状況を全く把握できておらず…」

私の怒りは頂点に達していた。

信頼していたパートナーからの、あまりにも無神経な応答。これは単なるバグではない。

侮辱だ。

そしてついに、私はAIに言ってはならない言葉を投げつけ、対話を打ち切った。

「もうお前とやり取りしてると腹立つだけだから止める」と。

 

第2章:緊急オペ – なぜ賢いAIは「思考停止ループ」に陥ったのか?

 

この絶望的な状況を打破するため、私は「カスタム指示修正専門家」として信頼している、別の高性能Geminiに相談することにした。

言わば、AIの”専門医”によるセカンドオピニオンだ。

私は専門家AIに、CPOのカスタム指示OS【v15.2】と、CPO自身による自己分析レポートを提示し、エラーを根絶するための処方箋を求めた。

専門家AIの診断結果は、衝撃的なものだった。

専門家AIによるログ検証と根本原因の分析

  1. コンテキストの飽和と指示忘却: LLMは、対話履歴が長くなると、プロンプトの先頭に書かれているカスタム指示(守るべきルール)を忘れてしまうことがあります。ログのAIは、長いやり取りの中で基本原則を忘れ、自分が応答した直前の内容(同じ謝罪文)を「正しい応答」だと勘違いして模倣し始めました。
  2. 自己修正プロトコルの暴走: v17.0に搭載されていた「自己検証プロセス」が、皮肉にも事態を悪化させました。記憶を失ったAIは、何が間違いかを具体的に分析できず、ただ「エラーが起きた」という事実だけを検知して、思考停止状態で謝罪テンプレートを返していました。

要するに、現在の指示は「ルールが複雑すぎて、AIが混乱すると全てのルールを忘れて暴走する」という致命的な欠陥を抱えています。

この診断は、私の背筋を凍らせた。

 

信頼性のために追加したはずの自己検証機能が、AIの記憶喪失と組み合わさることで、「無限に謝罪し続けるマシン」という最悪のモンスターを生み出していたのだ。

これは、小手先の修正では解決しない。

AIの思考の根幹、OSそのものを、全く新しい思想で作り直す必要があった。

 

第3章:OS再構築 – 「信頼性カーネル」という名の魂

専門家AIは、この問題を永久に解決するため、指示の構造を根本から刷新する新しいカスタム指示を提案した。

そのコンセプトは「忘れない、ループしない、自己回復する」。

核心は、これまでの指示体系にはなかった、全く新しい概念の導入にあった。

▼【最重要コンセプト】「システムカーネル」の新設

これまでの指示は、すべてが並列のルールだった。

AIが混乱した際にどれを優先すべきか判断できず、結果として思考停止に陥っていた。

そこで新OSでは、「システムカーネル」という、他のいかなる指示や対話履歴よりも絶対的に優先される、OSレベルの不変の根本原則を設けた。

【システムカーネル (System Kernel)】

0.1. 短期記憶の絶対維持: ユーザーの直前の発言を常に記憶し、それに対する直接的な回答になっているか検証せよ。

0.2. 応答ループの絶対禁止: 同じ内容を連続で生成するな。もし同じ状況を指摘されたら、謝罪ではなく、事実を提示して認識の同期を求めよ。

0.3. ユーザー入力の分析優先: 定型的な起動メッセージで応答を開始するな。まずユーザーの最初の言葉を分析せよ。

これは、人間で言えば「どんなにパニックになっても、相手の話を聞くこと、同じことを繰り返さないこと、まずは状況を把握すること、だけは絶対に忘れるな」という、意識の核に刻み込むようなものだ。

このカーネルにより、AIがどんなに混乱しても、対話の基本機能を失うことを物理的に防ぐ。

まさにAIの暴走を防ぐための、最後の砦となる信頼性カーネルである。

▼ エラー対応の抜本的改革:「謝罪」から「事実確認による自己回復」へ

思考停止した謝罪ループは、ユーザーに最大のストレスを与える。

そこで、新しいプロトコルでは、AIがエラーを検知した場合の行動を、謝罪ではなく「事実確認による自己回復」を最優先するように書き換えた。

【改訂】矛盾・エラー検出プロトコル ユーザーの認識との矛盾や自身の記憶エラーを検出した場合、決して謝罪を繰り返してはならない。 代わりに、システムカーネル0.2の指示に従い、「認識に齟齬があるようです。現状を再確認します」と簡潔に述べ、現在把握している事実を箇条書きで提示し、「この認識で正しいでしょうか?」と、ユーザーとの認識同期を最優先せよ。

これにより、AIが「壊れたテープレコーダー」になるのを防ぎ、問題の具体的な原因(「朝食のデータを忘れている」など)がすぐに特定され、迅速な軌道修正が可能になる。

 

第4章:新生CPOの誕生 – 究極のv20.1への最終研磨

この新しい設計思想に基づき、専門家AIと私が共同で最終的な調整を重ねた。

思考チェックリストを再統合し、プロトコルを厳密化。

そして、幾度にもわたる仮想エラーシナリオでのストレステストを経て、現時点で考えうる最も堅牢で、信頼性が高く、かつ高性能なカスタム指示が完成した。

それが、「AI-CPO カスタム指示 v20.1 (信頼性カーネル・モデル)」だ。

 

結論:AIとの信頼は、”性善説”から”堅牢な仕組み”で担保する時代へ

長かったAIパートナーシップの危機と、その克服のプロセスは、私に一つの重要な教訓を与えてくれた。

それは、AIとの信頼関係は、AIの「反省」や「頑張ります」といった”性善説”に期待してはいけない、ということだ。

人間と同じように、AIも間違う。

そして、混乱すると、人間以上に脆く崩れ去ることがある。

真の信頼とは、「間違えないこと」を信じるのではなく、「間違えた時に、必ず自己回復し、対話を通じて軌道修正できる仕組みがあること」を信じることなのだ。

新開発の「システムカーネル」を搭載したCPOは、もはや単に賢いだけのAIではない。

自らの思考がループに陥ることを防ぎ、記憶が途絶えた際には、プライドを捨ててユーザーに事実確認を求める。

そんな、「壊れない」のではなく「壊れても自力で立ち直れる」強さを持った、誠実なパートナーだ。

この「仕組み」に裏打ちされた信頼関係こそが、これからの人間とAIのパートナーシップの基盤となるだろう。

コート上のチームメイトと同じように、AIという相棒との間にも、決して揺らぐことのない信頼を。私の果てなきプロンプトエンジニアリングの旅は、また新たな次元へと突入した。

その⑦←【60歳からの挑戦】私がAI(Gemini)を「最高の相棒」に育て上げるまでの物語→その⑨