「最近、腹の底から笑ったのって、いつだっけ?」
仕事のメールを返信しながら、ふとそんなことを考える。
日々のタスクに追われ、気づけばカレンダーはあっという間に次の月へ。
学生時代の友だちと「また集まろうぜ」と交わした約束も、いつしか挨拶代わりになってはいないだろうか。
これは、そんな毎日を送る僕が、久しぶりに高校時代の仲間と再会した、ちょっと懐かしくて、どこか可笑しい一夜の物語だ。
始まりは、いつもの吉祥寺
8月の初め、高校のクラスメイトから一本の連絡が入った。
「久しぶりに集まらないか?」
もちろん答えは「イエス」だ。

ここ数回はプチ同窓会のように大人数で集まっていたが、今回は「本当に気心の知れた奴だけで」ということに。
結局、僕を含めた男4人が集まることになった。
場所は、僕らの第二の故郷ともいえる街、吉祥寺。
店選びを任された僕は、迷わず一つの名前を挙げた。
「懐かしの『いせや』で、焼き鳥なんてどうだ?」

全員から即OKの返事が来た。
「いせや」は井の頭公園の入口にある、吉祥寺では有名な焼き鳥屋。
だが僕らにとっては、単なる有名店ではない。
高校時代、部活帰りに煙たい店内で頬張った焼き鳥の味は、僕らの青春そのものだったのだ。
思い出の店が…ない!?
当日、少し遅れて吉祥寺駅に降り立つ。
先に着いた仲間が席を取ってくれているはずだ。
井の頭公園へ向かうと、見慣れたはずの場所に、真新しい建物が佇んでいた。
「あれ…? いせや、こんなに綺麗だったっけ?」

僕が焦がれたのは、あの煙で燻された古臭い店構えだったはず。

数十年という歳月が、思い出の風景をすっかり塗り替えてしまっていたのだ。
少し寂しい気持ちと、時代の流れを実感しながら店内へ入ると、先に着いていた仲間が手を振っていた。
60歳、オジサン達のリアルな会話
「よぉ、遅かったな!」 「しかし、みんな老けたな〜!」
今年で全員が60歳。
人のことは言えないが、鏡を見るよりお互いの顔を見る方が、よっぽど歳月の流れを実感できる。
乾杯もそこそこに、話題は尽きない。
- 最近の仕事の話
- 親の介護のリアルな悩み
- お互いの健康状態(血圧がどうの、膝がどうの…)
そんな中、僕の身体を見た仲間が驚きの声を上げた。

「お前、なんか身体おかしくないか!?締まりすぎだろ!」
実は最近、加圧トレーニングの成果か、体脂肪率が8%前後になっていた。
自分でも驚いている数値を伝えると、皆「病気じゃないのか」と本気で心配し始めた(笑)。
くだらない話で笑い、真面目な話で頷き合う。
この気兼ねない空気こそ、旧友と過ごす時間の醍醐味だ。
幻の「日産厚生園」探訪計画
思い出話が尽きない中、僕は何十年か前に家族と「三鷹の森ジブリ美術館」へ行った時のことをふと思い出した。
「そういえばさ、ジブリ美術館って、俺らが昔よく走ってた『日産厚生園』の近くだったんだよ。行った時びっくりしたもん」
僕の一言に、仲間たちの目の色が変わった。
「日産厚生園!あったなー!」
「あそこの土のトラック、マジで走りたくなかったよな」
「授業サボって芝生で昼寝したっけ…」
懐かしい記憶が次々と蘇る中、僕の脳裏に特別な光景がフラッシュバックした。
「そうだ!俺、思い出した!高3の学園祭で上映した映画、あそこで撮らなかったか?」
僕の言葉に、仲間の一人がポンと手を叩いた。

「あー!そうだった!撮った撮った!夜のシーンがあったから、何日も夜中まで撮影したよな?」
「暑かったよな、あの時」
「懐かしいなー!」と、一層話が盛り上がる。
そうだ、僕らはただ走らされていたわけじゃない。
あの場所で、くだらないことで笑い合い、一つのものを創り上げた仲間でもあったのだ。その記憶が、ただの「辛い思い出の場所」を、かけがえのない「青春の聖地」へと変えてくれた。
「よし、今から行ってみるか!」

ジブリの話から思わぬ方向へ転がり、僕らは異常な盛り上がりのまま店を出た。
しかし、スマホで場所を調べてみると、徒歩20分ほどの距離。往復で40分以上かかることが判明した途端、私以外の勢いが急速にしぼんでいく。
「…やっぱ、歩くのはキツいな」

「だよな。煙草吸える店で飲み直すか」
数分前の情熱はどこへやら。
結局、僕らの聖地巡礼は、あっけなく中止となった。
この“無理しない感じ”も、僕ららしいのかもしれない。
変わる街、変わらないもの
その後、喫煙OKの居酒屋で飲み直し、その日はお開きとなった。
すっかり様変わりしてしまった吉祥寺の街並みを歩きながら思う。
思い出の風景は少しずつ消えていくけれど、こうして集まれば一瞬であの頃に戻れる仲間がいる。
それは、何にも代えがたい宝物だ。
次に集まるのは年末か、年始か。
その日を楽しみに、また明日から始まる日常と向き合っていこう。







